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高校生が社会起業家青山氏に聞く「問題解決のヒント」~サイル学院高等部の授業レポート 【第2回・後編】~

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2022年6月2日、サイル学院高等部の起業家・事業家による特別授業が開催されました。授業の一環として定期的に行われる同イベント、名称は「事業家からのメッセージ いまを生きる君たちへ」。学校内では「イマキミ」と呼ばれています。

第2回目のゲストは、ボーダレスグループ ピープルポート株式会社代表の青山明弘さん。青山さんは日本にいる難民の貧困と孤立を、ビジネスで解決しようと奮闘されている社会起業家です。

サイル生の中には、「社会問題解決のためにビジネスを学びたい」という人もいます。関心の高いテーマでもあり、生徒たちからはさまざまな質問が飛び出しました。

ビジネスの先輩、人生の先輩から直接話を聞き、自分自身の「やりたい・なりたい」姿を見つける貴重な機会。本記事はイマキミレポートの後編、青山さんとサイル生の質疑応答をまとめてお届けします。

【イマキミレポート前編】青山さんの授業の様子を見る

勉強や友達とのコミュニケーション、趣味や部活動など。日々一生懸命に過ごしている高校生のみなさんは、なかなか未来のことを考える時間はとれないかもしれません。「いまを生きている」みなさんが、少し先の未来に目を向けるために。ビジネスの先輩、人生の先輩でもあるゲストからさまざまなことを学び、自分の未来へ一歩踏み出す、行動するきっかけをつかんでほしい。「事業家からのメッセージ いまを生きる君たちへ(通称イマキミ)」のイベントには、そんな思いが込められています。

ピープルポート青山さん

青山 明弘(あおやま あきひろ)さん

ボーダレスグループ ピープルポート株式会社代表。1990年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学法卒。祖父母から戦争の話を聞いて育ち、「自分の大切な人が理不尽に奪われる戦争・紛争」に課題意識を持つようになる。カンボジアで、内戦経験者へインタビューした事をきっかけに、ソーシャルビジネスでの戦争・紛争解決、および被害者の支援を志す。新卒で株式会社ボーダレス・ジャパンに入社。東京のボーダレスハウス事業部で1年半、その後ボーダレスハウス台湾支店の立ち上げへ。2年で黒字化し、帰国後日本へ逃れてきた難民のために、ピープルポート株式会社を立ち上げる。

サイル生からの質問と青山さんの回答

Q 私がサイル学院高等部に入学したのは「環境問題をビジネスで解決したい」と思ったからです。社会問題をビジネスで解決するときに気をつけるべきことについて教えてください。

青山 環境問題の解決、すばらしいですね。ぜひ取り組んでほしいと思います。社会問題をビジネスで解決する際に僕が大切だと思うのは、「ちゃんと現場を見て、当事者の声を聴く」ことです。

難民問題を解決すると一口に言っても、いろいろな切り口があります。難民一人ひとり、置かれている状況も、課題も異なるからです。

ざっくりと難民問題を解決するのは不可能で、誰のどんな困りごとを解決していくのか、“焦点”を絞る必要があります。

現場を見ずにメディアなどに出ている情報だけで判断すると、現実と違っていることがたくさんあるんです。

たとえば難民問題では、難民の仕事がないとよく言われます。でも実際にはたくさんあるんです。

ただ、それらの仕事の労働環境が過酷で継続できなかったり、働くことでスキルが積み重なっていく職種が少なかったりします。

本当の課題を知るためには自分の足で現場に行き、当事者の話を聴く。自分で一次情報を取りにいくことが大切です。

Q 青山さんは、難民問題を解決する手段としてPCのリユース事業を立ち上げたわけですが、もともとパソコンの知識を持っていたのですか。

青山 完全に独学です。大学での専攻も法学部で文系でしたし、とくにパソコンに詳しいわけではありませんでした。部品一つひとつの名前を覚えるところからスタートしたくらいです。

みなさん、中村哲さんって知っていますか。アフガニスタンで医療活動に従事されていた医師です。

中村さんは日々治療にあたる中で、「清潔な水が不足していることが、人々の健康を害する要因」だと気づくんです。そこでアフガニスタンで初めてダムの建設に着手しました。

中村さんってお医者さんなので、ダム建設の知識なんて持ち合わせていません。でも、必要だから作ったわけです。

僕がリユースPC事業を始めるうえでも、知識があるかないかというのは、たいした壁ではありませんでした。知らなければ、勉強すればいいだけですから。

反対に、「勉強するのが大変だから、やめよう」と思うようであれば、自分の中にその程度の意志しかなかったということ。ある意味、自分の意志や覚悟を問うバロメーターになるかもしれませんね。

ピープルポート青山さん

Q 日本の難民認定率が低いというお話がありましたが、日本の制度(システム)に課題があるのでしょうか。私自身は、国内での無関心さや、難民問題に対する意識の低さも関係している気がするのですが……。

青山 まさにそのとおりだと思います。日本の制度を変えていくためには政治を動かす必要があります。ですが、そもそも「難民問題を解決していこう」と声をあげる国民が少ないという現状があると感じています。

当社でもPCのリユース事業だけではなく、イベントや講演活動などを積極的に行っています。オフィスの見学も大歓迎です。オフィスに来てもらって、どんなメンバーがどのように働いているかを知ってもらえたら、もっと身近に感じてもらえるでしょうし、みなさんの見方も変わると思います。

また、プロダクトがあるのが、当社の強みです。

「困っています、応援してください」と呼びかけるのではなく、たまたま当社のPCを手にした方が、難民のスタッフが修理したと知る。偶発的な出合いで、社会問題に関心のない方にも知ってもらえるのが、ビジネスの良さだと捉えています。

Q ピープルポートでは難民申請者を雇用しているとのことですが、どのようにして難民申請者に声をかけているのですか。

青山 「難民支援協会」という認定NPO団体から紹介を受けています。難民申請をされている方を見つけるのがまず大変なのと、その方が難民の可能性が高いのか、調べるのが難しいので、協会から紹介を受ける形をとっています。

Q 青山さんのように、どうすればさまざまな角度からアイデアを出せるようになりますか?

青山 そうですね。僕もまだまだですが、「経験すること」がすごく大事なのかなと考えています。

僕が今、話していることは、すべて自分の生活や体験の中から生まれたもの。さまざまな角度からアイデアを出すためには、異なる体験を積み重ねることが近道なんじゃないでしょうか。

反対に、経験していないことを考えるのって、とても難しいです。

たとえば洋服に関する事業がしたいと思ったら、まずアパレル店で働いてみる。仕入れについて学びたいと思ったら、バイヤーに話を聞きに行く。実際にチャレンジしてみたり、すでに経験している人に話を聴いたりすることをおすすめします。

サイルビジネス学院授業

Q 難民問題という社会問題に対して、今、私たちにできることはありますか。

青山 昨年、国会に提出された入管法の改正案に対して、「改悪だ」と感じたたくさんの人が声をあげ、メディアでも話題になり、再提出が見送りになったことがありました。

今の日本には、どのような社会問題があるのかを知り、関心を寄せる人が一人でも増えてほしいと願っています。

難民問題に限らず、商品やサービスを選ぶ際に、その“ウラ側”に少しだけ目を向けてほしいです。このプロダクトはどのように生まれているのか。環境や人権に配慮している企業なのかどうか。

消費者の一つひとつの選択が、より良い社会をつくっていくと僕は思っています。

Q 私自身、海外から日本に来て、外国人への差別意識を感じることがあります。一方で、日本にある差別意識そのものに気づいていない日本人もいます。たとえばビジネスで難民問題を解決できたとしても、根本にある国民のマインドが変わらなければ、また違う問題が生まれるのではないでしょうか。青山さんは、ビジネスで人々のマインドを変えることは可能だと思いますか。

青山 僕は、何か一つの事業やソリューションで、オセロみたいに、すべてがひっくり返って、人々のマインドが変わることはないと思っています。

ただ、すべてを一気に変えられなくても、何か一つに焦点を絞って地道にやりつづけていくことで、変わる景色があるはずです。その焦点を何にするかは、自分自身で決めることだと思います。

それが僕にとっては、難民の人たちなんですね。生活に困窮したり、強制送還されたり、誰かに騙されてしまったりする前に、一人でも多くの方を自社で雇用したいと思っています。

人々のマインドを変えることに真正面から取り組むビジネスではありませんが、僕たちの活動を知ることで、結果的に難民に対する見方が変わったり、関心が高まるといいなと思っています。まだ最適解は見つかっていないので、ぜひ一緒に考えてくれたら嬉しいです。

サイルビジネス学院高等部

Q 青山さんにお話を伺って、真正面から課題にぶつかり、その都度壁を乗り越えられてきたことが伝わってきました。楽しく、学びの多い時間でした。ありがとうございます。ピープルポートの今後の展望について教えてください。

青山 まずは規模感として100人、難民申請中の方を雇用したいと思っています。当社から在留資格を申請し、日本語が話せなくても安心して働ける場所をつくりたいというのがステップ1です。

ステップ2としては事業の幅を広げます。実はPCのリユース事業というのは在留資格を安定的にたくさん出せる業種ではないんです。ですから、さらにソフトウェアの開発やプログラミングの分野に事業拡大していきたいと考えています。

ステップ3は海外展開です。先ほどお話したとおり、日本で難民認定を受けることは簡単ではありません。同時にビザの書き換えも難しいんです。世界中にピープルポートの海外拠点をつくれば、日本で働き続けることが難しくなった人も、他国で雇用できます。この3つのステップを3年以内に進めたいと考えています。

青山さんからサイル生へのメッセージ

ピープルポート青山さん

青山 僕自身、まだ道半ばで、言えることは少ないのですが、みなさんにお伝えしたいのは「どんどん実験しましょう!」ということです。

僕は難民問題の解決に向けてピープルポートという会社を立ち上げました。

でも、自社で雇用して安心して働ける場所をつくることや、在留資格の申請をしていくことが最も良いやり方なのかは、正直わかりません。

海外展開の構想を含め、僕ら自身が、まさに社会実験をしている最中なんです。だから、また新たな壁にぶつかるかもしれないし、遠回りすることもたくさんあると思います。

でも、たとえ実験がうまくいかなかったとしても、それは社会にとって、ものすごく意義のあることなんです。なぜなら、同じことを目指す仲間やこれから取り組む人は、「このやり方はうまくいかないんだな」と気づけるから。

社会としても経験値が一つ上がるわけです。

ですから、うまくいくかどうかを気にしたり、失敗を恐れず、自分がやるべきだと思うことを試してみてほしい。挑戦する人が増えれば増えるほど、社会はどんどん良い方向に向かいます。

実験思考で、意義あることにトライしていきましょう。それが僕からみなさんへのメッセージです。


青山さん、ありがとうございました!

(デザイン:山本 香織、文:猪俣 奈央子、編集:安住 久美子)

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この記事を書いた人

フリーライター
猪俣 奈央子 / Naoko Inomata
フリーライター

大学卒業後、転職メディアを運営するエン・ジャパン株式会社に入社し、中途採用広告のライター業に従事。最大20名のライターをマネジメントする管理職経験あり。2014年にフリーのインタビューライターとして独立。働き方・人材育成・マネジメント・組織開発・ダイバーシティ・女性の生き方・子育て・小児医療・ノンフィクションなどを得意ジャンルとしている。近年では著者に取材し、執筆協力を行うブックライターとしても活動中。