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【無料公開】書籍「13歳からの進路相談」0日目/高校選び、大学入試、就職活動にも役立つ進路の考え方

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サイル学院高等部 学院長・松下雅征の著書「13歳からの進路相談」シリーズ第2弾となる『13歳からの進路相談 仕事・キャリア攻略編(すばる舎)』が、2025年4月に発売されます。

出版を記念して、前作『13歳からの進路相談(すばる舎)』の一部「0日目/高校選び、大学入試、就職活動にも役立つ進路の考え方」を無料公開!

「13歳からの進路相談」シリーズは、全国の学校や市区町村の図書館で多数採用されている進路選択・キャリアの入門書。自分らしい人生をつくるヒントがたくさん詰まった一冊です。

これから進路を考える方から、お子様を持つ保護者の方、自分のキャリアを見直したい大人まで。この機会に、ぜひご一読ください。

ご購入は記事末尾の各販売サイトからどうぞ。

進路選びのドーナツ化現象

横長の大きいホワイトボードが1枚と、6人がけのデスクが置いてある会議室。シンとミクは、ヒカリとデスクを挟むように向かいあって座っている。

「そう言えば、2人の名前を聞いてもいいかな」

「ミクです!こっちは幼なじみのシン。学校は別ですが、家が隣同士で。お互い一人っ子だったので、幼稚園の頃からよく一緒に遊んでたんです」

「シンです。こっちはって......僕のほうが年上なのに」

「あれ、ミクちゃんってシンくんと同い年じゃないの?」

「私は13歳の中1で、シンは15歳の中3!」

「あ、そうなんだ。てっきり同い年かと......」

ミクの元気さに、ヒカリはやや圧倒されていたが、気を取り直して話し始めた。

「進路を選ぶ準備、と聞いて、シンくんは何を想像する?」

「志望校について塾や学校の先生から話を聞いたり、あとはインターネットで調べたり、とか」

「志望校、はどうやって選ぶの?」

「自分の偏差値にあった高校で高いところから順番に。あとは通学できる範囲内かどうか、ですかね」

ヒカリはシンの話を聞きながらゆっくりと二度うなずき、一呼吸置いてから質問した。

「偏差値の高い高校に行きたいのはどうして?」

「いい大学に入ると、その後の人生で役に立つ。やりたいことはいつでもできるけど、いい高校、いい大学には今しか行けないって、お父さんが言っていて。もちろん、学歴がすべてじゃないことはわかるんですけど、それでも、いい学歴はないよりあったほうがいいと思うから。それなら、偏差値の高い高校がいいかなって」

「たしかに、偏差値の高い、いわゆる“いい”学歴は持っていても困らないと思う。けど、シンくんの選び方だと、就職活動の時に困っちゃうかもしれない」

「どういうことですか?」

シンは不思議そうに尋ねた。

「さっき話した通り、私はふだん大学生の進路相談、就職活動の相談にのっているんだけど、会社が決められない、本当にこの会社でいいのか自信がない、という相談が多くて......。

実は今朝、相談にのった人も同じように悩んでいたの。どうしてだと思う?」

「そうですね。やりたいことが見つからない、とかですか?」

シンは自信なさげに答えた。

「それもある。けど、もっと具体的に言えば、偏差値だけで決めてきたから、偏差値がない就職活動になった途端に、自分で決められなくなっているの」

ヒカリはデスクに置いてあるドーナツを1つ、つまんで続けた。

「その人は、就職活動になった途端、ドーナツみたいになっちゃったの。ドーナツって、真ん中がすっぽり空いていて、周辺が輪になっているでしょ。一つひとつの学校や会社がドーナツの周辺だとして、大学選びまでは『偏差値』っていう軸が真ん中にあったの。でも、就職活動になった途端、偏差値がなくなっちゃったから、真ん中がすっぽり空いちゃって......。一つひとつの企業がドーナツの周辺なら、どこを食べても美味しいはず。なのに、決める軸がないから、どこを食べればいいかわからない、みたいな状況なの」

ヒカリは立ち上がり、ホワイトボードにドーナツのような絵を描いて説明を続けた。

0日目-進路選びのドーナツ化現象

「もう少し、具体的に説明するね。例えば、会社選びなら一つひとつの会社。高校選びなら一つひとつの高校がドーナツの周辺。たくさんの選択肢がある。けれど、その時の自分が選べるのは1つだけ。数ある選択肢から何かを選ぶ、ということは、それ以外の選択肢を捨てる、ということ。でも、何を選んで、何を捨てるか、判断するための選択基準となる『進路選びの軸』がないと、それは難しい

どうして進路選びには時間がかかるの?

ヒカリの説明に、ミクは納得がいっていない様子だ。

「でも、いい会社に入るには、偏差値の高い大学に入る必要があって、結局は偏差値の高い高校に入る必要があるんだから、進路選びの軸って、大学に入ってから考えるのが一番いいんじゃないの?」

「僕のお父さんも同じことを言っていて、だから僕も、自分の家から通学できる範囲で、なるべく偏差値が高い学校を選ぶのが一番いいなと思ってました」

シンも、ミクの意見に賛成と言わんばかりに言葉を重ねた。

「進路選びの軸を見つけることは、とても時間がかかるのよ。もちろん、大学に入ってから考えることも大切。だけど、できる限り早く、ミクちゃんと同じ13歳くらいの頃から、進路選びの軸を見つけよう、と準備をすると、自分にあった進路を選びやすくなるって私は考えているの」

「それに、本当に時間がかかるものだから、10代はもちろん、20代、30代、ひょっとすると、もっと上の世代でも、進路選びの軸を見つけようと意識して過ごしていないと、『私の軸はこれです』って、自信を持って答えられない方も多いんじゃないかな」

ヒカリの言葉を聞いて、シンは転職すべきかどうかを悩み続けている父親を思い出した。長年つとめた会社で、このまま定年まで仕事を続けるか、思い切って転職をするか。かれこれ2年ほど悩んでいるようだった。

「どうして、進路選びの軸を見つけることに時間がかかるんですか?」

シンの言葉を代弁するように、ミクが尋ねた。

「進路選びの軸を見つける、言い換えると、進路選びの軸を『知らない』状態から『わかる』状態になるまでには、いくつか壁を乗り越える必要があるの」

ヒカリはホワイトボードを使って、壁に見立てた3つの長方形を、1本の水平線上に並べた。

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「1つ目は知識の壁。『知らない』と『知る』の間にある壁。2つ目は行動の壁。『知る』と『やってみる』の間にある壁。3つ目は理解の壁。『やってみる』と『わかる』の間にある壁」

「3つの壁を乗り越えて、はじめて人は、自分で『わかる・理解できる』ようになるの。進路選びの軸を見つける、すなわち、自分の進路選びの軸が『わかる・理解できる』ようになるには、何かを知るだけじゃだめ。実際にやってみて、理解する必要がある。だから時間がかかるのよ」

時間の使い方を見直す方法

シンはヒカリの説明に納得しつつも、浮かない表情をしていた。

「実際にやってみるって言われても......学校が終わったら毎日部活があるし、宿題もあるし。テスト勉強もやらなきゃいけないし、友だちと遊んだりもする。今の状況でも時間がないって思うのに、これ以上何か新しいことをやるなんて、正直、無理だなって思います......」

「そうね、それなら、シンくんは時間の使い方を見直してみるといいかもしれない」

ヒカリはホワイトボードに、縦に1本、横に1本の十字を引いて言葉を続けた。

「時間管理のマトリクス、と呼ばれる考え方があってね。縦軸を重要度の高い低い、横軸を緊急度の高い低いと置くの。シンくんもミクちゃんと、試しに書いてみてよ」

シンとミクは、デスクの上にそれぞれノートを置き、白紙のページに時間管理のマトリクスを書き始めた。

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「次に、時間の使い方を4領域に分類してみる。左上の第1領域は、必ずその時間にやるべき重要なこと(緊急度:高、重要度:高)。右上の第2領域は、その時間にやる必要はな
いけど重要なこと(緊急度:低、重要度:高)。左下の第3領域は、その時間にやるべきだけ
ど重要ではないこと(緊急度:高、重要度:低)。右下の第4領域は、その時間にやる必要もなく重要でもないこと(緊急度:低、重要度:低)。例えば直近1週間のスケジュールを、4つのうちどれかに当てはめて考えてみて」

「質問です!重要度ってどうやって決めるんですか?例えば、私はファッション雑誌を読んだり、ニュースを見たりするのは自分の好きでやっていて、緊急度は低いと思うんですけど、重要度がわからないなって。流行を見たりするのが好きだからって言うのは、重要なことに入りますか?」

「いい質問ね。ミクちゃんの人生にとって必要だってミクちゃん自身が思うことなら、重要なことだよ。逆に言えば、誰かが見ているからなんとなく雑誌を読んだりニュースを見たりする場合は、同じことをしていても重要じゃないことに入る」

「なるほどー、ありがとうございます!」

ミクは納得した様子でノートを埋め始めた。10分後、シンとミクの手が止まった頃に、ヒカリがゆっくりと2人の様子を伺いながら話し始めた。

「そろそろ書けたかな。シンくんはどう?どの領域で予定は埋まっているかな?」

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「第1領域と第3領域が多いですね......全体的に左側に寄っていて、全部急ぎでやらないといけないことっていう感じがします」

「ありがとう。ミクちゃんはどう?」

「私はまんべんなくですが、やりたくないことはやらないので、全体的に上側が多いです!」

「2人の性格が表れていて面白いね。見た感じ、シンくんはやっぱり真面目だね。学校の宿題、テスト勉強、部活、友だちづきあい、いろいろなことを全部ちゃんとやろうってしている感じね。一方、ミクちゃんは自分の気持ちに素直で、必要ないって思ったことはやらないか、そもそもやらなくてもいいように、はじめから距離を置いているって感じかしら」

シンとミクは、その通りです、と言わんばかりに大きく二度うなずいた。

「シンくんのように、自分のスケジュールを見ると左側に寄ってしまう人は多いの。
特に学校に通っていると、そもそも時間割や宿題、テストの日付が決まっていて、いつまでにこれをしなさいって言われることが多いしね。

もちろん、締め切りまでにやり遂げる力はすごく大切だから、まったく悪いことじゃない。だけど、自分にとって本当に大切なことは、誰も急かしてはくれない。人生の時間を何に使いたいか。将来どんなふうに生きたいか、とかね。

極端な話、みんな自分のことに精一杯で、他人のことは後回し。だから他人の人生や生き方について、あれこれ言う人は少ないのよ」

ヒカリは一呼吸置いた後で、少しためらうようにして言葉を続けた。

「もしかすると、ご両親や親族の方は、あれこれ言うかもしれない。だけど、たとえ家族であっても自分じゃない。どれだけ自分を大切に思ってくれているとしても、あくまでも他人。だから自分のことを100%理解した上で、自分にとって重要なことを言ってくれるとは限らない。重要かどうかを決めるのは、自分自身だからね」

ヒカリ自身、両親から「あなたの将来のために」という枕言葉で、さまざまなことを言われた過去がある。中学生の頃、転校ばかりで友だちが少なかったヒカリにとって、親は世界の大部分を占めていた。

しかし、親の言うことは絶対ではない。世の中にはいろいろな生き方があるし、いろいろな価値観を持つ人が暮らしている。自分の人生にとって重要なことに正解はない。自分の人生で何が重要かは、自分で決めるしかない。

ヒカリがこれに気がついたのは、人生初の就職活動を終えた大学4年生の春だった。

「自分にとって重要なこと。言い換えると、誰からも急かされることがないことは、今すぐやる理由がない。自分以外に理由をつくる人がいない。だから強い意志がない限りは、他人から急かされること、緊急度の高いものを優先しがちになる」

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ヒカリは昔の自分に言い聞かせるように、優しくも、はっきり芯のある声でシンとミクに語りかけた。

「進路選びの軸を見つけることは、右上の第2領域にあたること。後回しになってしまいがち。

だからこそ、意識して取り組む時間をつくることが大切なの」

「もしも時間をつくったとして、どうやって進路選びの軸を見つければいいんですか?例えば、僕が時間をつくっても、何をすればいいのかわからないと、結局ただマンガを読んだり、趣味の時間にするだけだなって......。マンガを読むのは、マンガ家になる勉強って言えるかもしれないですけど、そもそもマンガ家になって、将来お金が稼げるかわからないし。それが進路選びの軸か、自分の人生にとって大切か、と言われると、自信ないです......」

「私も、ファッションやニュースを見るのは自分のためって思っているけど、進路選
びの軸を見つけるために必要かって言われると違う気がします」

シンとミクは困った表情で、デスク越しに立つヒカリの顔を見上げた。

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「安心して。誰でも進路選びの軸が見つかる方法があるの。でも、それを伝えるには今日は時間が足りないわね......。普段は数時間くらいの講演で、時間をかけて伝える内容なのよ」

「えー、ここまで聞いたんだから知りたいです!私たち、明日から冬休みだから今日は遅くなっても大丈夫です!」

「僕も、進路選びの軸を見つける方法、知りたいです!」

ミクとシンは、まっすぐな目をヒカリに向けて訴えた。

「さすがに夜遅くなるのはね......。そうだ!そしたら明日から5日間、毎朝30分、時間をもらえる?」

ヒカリは「13歳からの進路相談」というテーマの講演会で全国各地を飛び回っている最中だった。今日から5日間はシンとミクが住む町に滞在し、町内の大学で講演する予定が詰まっていた。

「私が泊まっているホテルは公民館の近くだから、ここの会議室でもよければ、講演会が始まる前、8時からならずっと空いているよ」

「私たちの家もこの辺りなので問題なしです!シン、予定ないよね」

「勝手に決めないでよ。ないけどさ......。

来年から行こうかどうか迷っている学校の出願〆切は5日後だし、それまでに考えをまとめたいからな......。ヒカリさん、これを機に進路選びの軸を考えたいです。お願いします!」

「そしたら決まりね。明日の朝8時、またここに集合!」

明日から冬休み。15歳のシンと13歳のミクのために、ヒカリによる5日間におよぶ進路選びの軸を見つけるための講義が始まった。

13歳からの進路相談 目次

クリックできる部分は、無料公開の対象です。気になる項目があれば、ぜひ他もお読みください。

【はじめに】

【プロローグ】「進路選び、どうしよう?」

【0日目】高校選び、大学入試、就職活動にも役立つ進路の考え方

【1日目】進路選びの軸を見つける3つのステップ

【2日目】ステップ1:社会でお金を稼ぐことに対する解像度を高める

【3日目】ステップ2:自分の感情に対する解像度を高める

【4日目】ステップ3:社会と自分の重なりを選ぶ

【5日目】進路選びの落とし穴をさける

【エピローグ】「どんな進路にも役立つ力」

【特別インタビュー】今を生きる君たちへ「もし私が、13歳なら」

書道家・3人の父親 武田双雲さんが贈る、13歳へのメッセージ「今感じている劣等感や短所は、ぜんぶ勘違いだから捨てていいよ」

YouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」の葉一さんが贈る、13歳へのメッセージ「夢は変わっていい、まずは始めることが大切」

元ミクシィCEO・起業家兼投資家の朝倉祐介さんが贈る、13歳へのメッセージ「失敗を想定するから、思いきり挑戦できる」

【おわりに】

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イラスト©森永ピザ

この記事を書いた人

サイル学院中等部・高等部 学院長
松下 雅征/Matsushita Masayuki
サイル学院中等部・高等部 学院長

1993年生まれ。福岡県福岡市在住。一児の父。株式会社13歳からの進路相談 代表取締役社長。著書『13歳からの進路相談』シリーズは続々と重版され、全国の学校や市区町村の図書館で多数採用されている。
学生時代は早稲田実業学校高等部を首席で卒業し、米国へ留学。その後、早稲田大学政治経済学部を卒業。やりたいことではなく偏差値を基準に進路を選び後悔した経験をきっかけに、大学在学中に受験相談サービスを立ち上げる。これまでに寄せられた中高生からの相談は10万件を超える。大学卒業後は教育系上場企業とコンサルティング会社・才流(サイル)で勤務。
2022年に同社の子会社を設立し、代表取締役に就任。一人ひとりが自分に合った進路を選べる社会を目指し、「 サイル学院高等部(通信制)」を創立。全国から入学・転校生を受け入れ、高校卒業だけではなく、その先のキャリア支援も行っている。
著書:『 13歳からの進路相談(すばる舎)』、『 13歳からの進路相談 仕事・キャリア攻略編(すばる舎)